「もっと早くエンバーミングを終わらせられないの?」
「なんでそんなに時間がかかるの?」
「なんで処置時間がそんなにバラバラなの?」
これらは多くのご遺族や葬儀担当者の方から投げかけられるご質問の一部です。
今回はこれらのご質問にお応えすべく、エンバーミングの処置に必要な時間についてお話ししたいと思います。
【処置時間について】
エンバーミングでは専用の薬品を体液や血液(ご遺体の感染、腐敗要素)を交換してお体の消毒、防腐を施します。この他に衣装の着替えや、お体の洗浄、洗髪、メイクを行います。一般的な病気による死因、また腐敗が進行していない状態では3時間程の時間を必要とします。しかし、故人様の状態、症状、依頼内容によって所要時間が変わり、早まる場合もあれば、延長時間が必要となってくる場合もあります。
【処置時間を左右する要素】
▼体格▼
人の血液量は体重と関連してきますので、薬液を全身に浸透させるためには、個々に必要量が変わります。指先までしっかり注入するには、相応の流速・圧力が必要となるため注意して行わなければならず、体格が大きい方ほど時間が必要になります。
▼保存期間▼
通常の処置で1週間程の状態維持が可能です。それ以上の保存を目的とする場合は防腐効果を高めるため補助処置が必要になります。
▼着替え品▼
着物やスーツなど着用するアイテムが多かったり、ワンピースなどの背中にファスナーやボタンがあるものは、更に時間が必要になります。
▼状態による追加処置▼
外部の状態による追加処置
皮膚が病気・外傷等で弱くなっていて傷口から体液がしみ出てくる場合や、その心配がある場合は、液漏れ処置やプラスチックスーツを着用する等、相応の追加処置を施します。
内部の状態による追加処置
エンバーミングの主要ポイントは、各血管の状態にあります。病因や治療内容、腐敗の進行度等により、血管が詰まっている場合や途切れている場合があります。それら生前の血管状態が影響し薬液の浸透が弱い場合には追加処置が必要となります。これは実際に処置を始めてからでないと確認できないこともあります。また、ドライアイスによる血管の凍結は、薬液が注入できるようになるまで解凍する時間が必要になります。
▼解剖処置▼
解剖された故人様には処置方法が変わってきますので、3時間で終了することは難しく、概ね4時間は必要になります。また、頭部も解剖されている場合は更に30分以上の追加処置が必要となります。病院や警察などで縫合されているものを、もう一度丁寧に縫合しなおさせていただいています。
▼修復処置▼
修復処置に挙げられる、お顔をふくよかにする、外傷の縫合、カバーメイク等は別途時間が必要になります。
私どもエンバーマーは、故人様をご遺族のもとへ少しでも早くお返しできるよう、常に最善を尽くしております。手術室を想像していただくと分かりやすいかと思いますが、関係者以外は処置室に入室できないため、今回のお話で少しでも状況をご理解していただけたら幸いです。
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「エンバーマー」 ~心とご遺体を修複するために僕がしてきたこと~
著者 : 橋爪謙一郎
発行 : 祥伝社 価格 : 1,575円(消費税込)
2009年1月28日より全国書店にて発売中