今回は再び、アメリカの葬祭大学時代の話の中から、エンバーミング実習についてお話します。
カレッジ生活は猛勉強の毎日でしたが、僕が幸運だったのは、カレッジの教師の中にエンバーミングの教科書を書いたロバート・G・メイヤー氏がいたことでした。彼を始め、数多くのクリニカル・エンバーミングの実習の担当教官は皆優秀で、そのうえ、僕に1体でも多くの実習をさせようとしてくれたのです。そのおかげで、その時の経験が今でも仕事の上で役立っています。
カレッジでは、すべての生徒が最低20体のご遺体をエンバーミングし、指定のチェックリストに基づいて、指定の回数以上それぞれの血管を見つけ出し、エンバーミング溶液を動脈に注入し、排血を行わなければなりませんでした。カレッジは、ピッツバーグ大学医学部、アレジニー郡の検死局、地域の葬儀社と、低所得者に対して無料でエンバーミングを行う契約を結んでいたため、基本的には毎日、当番の生徒が2人、もしくは1人で担当教官の指導のもと、手順の最初から最後までやり遂げるのでした。
僕はできるだけ多くのエンバーミング実習をしたいと思っていたので、人が足りなそうなときはいつでも自分で手を上げて参加していました。そのため、休みの日も家に電話がかかってきて、検死局に出向いて1人で2体エンバーミングしたこともありました。エンバーミングは経験を積めば積むほどその奥の深さが身にしみてきて、その責任や危険性もよく分かってきました。B型やC型肝炎、AIDS、結核等の感染症の危険性もありますし、エンバーミングの薬品自体も刺激が強く、すべて注意して扱わなければいけません。
僕は、この経験から、自分の健康を守れるのは自分しかいないことをしっかりと叩き込まれた気がします。と同時に、故人とのお別れをできるだけきれいなものにしてあげるためにエンバーミングがあるとするならば、ご遺族の心のケアという部分で、グリーフケアをはじめとするアフターケアがあるのだということを知りました。そして、これからの葬祭業にはどちらが欠けてもいけないのではないかという印象を強くもったのです。そこで僕は、インターン先を探す間に、大学院で心理学を勉強し、しっかりとしたグリーフケアの基礎を学ぼうと思ったのです。